兵庫県では、EXPO2025をきっかけに、「ひょうごフィールドパビリオン」のプログラムを展開しています。兵庫県に根付く歴史や文化からSDGsな取り組みを見出し、地元の人々がその魅力を発信していきます。実際に現場(フィールド)を訪れ、体験しながら楽しく学ぶことができるプログラムを各種作っています。今回はその中で、宝塚市で認定された「タンサンと湯のまちのルーツさがし」を紹介します。
「宝塚」といえば、宝塚歌劇団を思い浮かべる人が多いでしょう。しかしかつては歌劇以外に遊園地や温泉もある、関西のレジャー拠点でした。時代とともにマンションや住宅街へと変わり、その面影は少なくなりましたが、今も温浴施設やホテル、名産品があり、湯のまちの伝統を守っています。
〇宝塚駅から温泉街へ
阪急宝塚駅を出てすぐの武庫川にかかる「宝来橋」を渡ります。この先が、かつて温泉街だったところで、旅館が並んでいましたが、今はマンションになっています。
橋を進んで正面右手に、安藤忠雄が設計した日帰り温泉施設「ナチュールスパ宝塚」が見えます。宝塚温泉は茶色に濁った「金宝泉」と透明な「銀宝泉」の2種類ありますが、ここでは両方を楽しめます。
【ナチュールスパ宝塚】
営業時間:平日9:30~22:00(最終入館 21:30)
土日祝9:30~21:00(最終入館 20:30)
休館日:第2・4木曜日
住所:兵庫県宝塚市湯本町9-33
HP:https://www.naturespa-takarazuka.jp/index.html
〇温泉街と「タンサン」
無糖炭酸飲料として日本でトップシェアを誇る「ウィルキンソン・タンサン」は、実は宝塚発祥です。宝塚ではかつて天然の炭酸泉が湧き出ていました。それを利用し、1890年ごろイギリス人実業家のクリフォード・ウィルキンソンによって炭酸水の生産が始まりました。最初は温泉街近くに工場があり、隣接して外国人向け洋式ホテル「タンサンホテル」も営業していたそうです。その後、1904年に1.5㎞ほど離れた現在の西宮市生瀬(なまぜ)に移転し、1990年まで生産が続けられました。今では、「タンサン」発祥の地を記念して、「ナチュールスパ宝塚」の前に炭酸水だけの自販機が設置されています。
そして、今も炭酸が湧いているところを見られます。湧出地は川底ですが、宝来橋の下まで行くと、川底から炭酸が湧く様子を見られます。
〇温泉の名物「炭酸せんべい」
この炭酸にちなみ誕生した名物が「炭酸せんべい」です。小麦粉に砂糖や炭酸水をまぜて焼いた、サクサクと軽い口当たりのお菓子で、昔からお土産として親しまれています。宝来橋のたもとにある「黄金家(こがねや)」は、1897年創業の老舗です。
今回は長年炭酸せんべいを焼き、ずっと温泉街を見続けてきた的場さんにお話しを伺い、製造工程も見せてもらいました。温泉街のにぎわいのピークは、最初の大阪万博があった1970年。夕方には、旅館の宴会場に向かう芸妓であふれていて、当時は少なくとも200人は芸妓がいたそうです。また、宴会後の送迎などでタクシーもあふれかえるぐらいだったとか。
そして、的場さんに炭酸せんべいの製造工程も見せてもらいました。炭酸せんべいは、百貨店などでも販売されていますが、すべてここで製造しています。鉄板に生地を流して上下でプレスし、まんべんなく焼きます。1回で6枚分焼くことができます。6枚分はそれぞれくっついた状態のため、それを分離させるために隣にあるローラーで軽く押すようにして6枚に分け、余分なところを落として出来上がりです。出来立てをいただきましたが、まだほんのり温かく、サクサクとして軽やかで、程よい甘さが特徴です。
温泉街は変わりましたが、炭酸せんべいは変わらない、シンプルな味で今も支持されています。
【黄金家】
営業時間:9:30~18:00(定休日:月曜日 ※祝日の場合は翌日休)
住所:兵庫県宝塚市湯本町9-27
HP:http://koganeya.jp/koganeya/TOP.html
〇宝塚温泉の歴史を伝えるホテル
「黄金家」の隣に、宝塚温泉の宿「ホテル若水」があります。ここは、温泉の歴史を伝える品がいくつも残っているそうです。宝塚温泉にまつわるお話を「ホテル若水」の代表取締役の小早川さん、広報担当の藤本さんに伺いました。
ロビーの奥に、大きなウィルキンソンのパネルが目に入ります。2024年は「ウィルキンソン・タンサン」の商品名で販売開始されて120周年で、期間限定で展示されています。隣には、約130年前の温泉街を再現した模型が期間限定で展示されています。そして、もうひとつ目を引くのが水をたたえた石造りのモニュメント。これは、「タンサンホテル」跡地の工事中に偶然見つかった貴重なものです。
炭酸にまつわるものは他にも。2階にある宿泊者専用ラウンジに案内いただき、「ウィルキンソン・タンサン」のラベルを見せていただきました。当初はほとんど輸出用だったようで、ラベルも日本らしく、仏教の仁王像がデザインされています。また、当時の炭酸水は「胃腸を仁王の如く強くする」というコンセプトで販売されていたそうです。
展望風呂がある8階へ行くと、「寶塚温泉」と書かれた立派な看板があります。これは温泉場に掲げられていた看板でした。1897年の水害で流されましたが発見され、温泉街復興の象徴として現在も受け継がれている貴重なものだそうです。また、浴場へ続く廊下には、昔の温泉街の写真が展示されています。
ホテルでは透明な湯「銀宝泉」を楽しめます。また、日帰り入浴も受け入れています。お土産には茶色に濁った湯「金宝泉」を再現した入浴剤「宝塚の湯」も販売されています。
【ホテル若水】
住所:兵庫県宝塚市湯本町9-25
HP:https://www.h-wakamizu.com/
今の宝塚温泉は、昔からは様変わりしましたが、歴史や伝統を伝えていこうという姿を見ることができました。宝塚大劇場も近いので、観劇にあわせて訪ねてみてはいかがでしょうか。